心を無にして開いてください
会場に出囃子が鳴り響く。2人の男、サンパチマイクに駆け寄る。
拍手と笑顔で迎える観客たち。出囃子が鳴り止む。
「みなさんお腹すいてないですか?」
「今日もお腹いっぱい笑かすで!」
「どうも、ホットランチですー」
「おかずだけでも食べていってくださいね」
「まぁゆうてますけど、ぼくらもついに35ですよ」
「ほんまスクスク育ってね」
「35ゆうたら中々やで。言うても30まで」
「あほ言いな。男で35ゆうたらまだまだやがな。男だけちゃう女もや」
「女もかいな?」
「そら女もや。女ちゃうな、女性もや。ほら見てみ、ほらあそこもあそこもべっぴんさんや」
「ほんまやな。べっぴんさん、べっぴんさん、ひとつキスしてべっぴんさん」
「あかんがな、ひとりキッスしてもとるがな」
「あかんのかいな。キッスゆうてもただのキッスちゃうで」
「なんやいな?」
「メルティーキッスや」
どう?びっくりした?鳥(酉)肌を超えて戌肌やろ。ちなみに干支ね。突然こういう感じで始まる恐怖を与えたくて書いてみました。大丈夫。君より僕の方が怖いから。
「こども?自分もまだこどもみたいなもんや。なかなか想像でけへん」
「ゆうても君もぼくと同じ35やがな」
「35?君も35かいな?いつのまに」
「あほ言いな。高校の同級生や。同じや。なんや君留年でもしとったんかいな?」
「留年?なんの話や」
「35や」
「35?35ゆうたら君あれや、足のサイズや」
「あ、足のサイズ?」
「足や。えらい大きいなって。真面目にやってきたからやろなあ」
「足のサイズ35!」
なあ?びっくりした?さすがに亥肌くらいまできた?干支も最後やけど。コツはそうやな、心を無にすることでしょうか。いや、とんでもないでこれは。
「それにしても君とこの子ももう大きいなったんかいな」
「もう大きなったで。絵も描きよるで」
「絵?そら立派なもんや」
「これ見てみ、テーマはオッチンチンや」
「オッチンチン!」
「こどもの脳は無限やで」
「無限も何も写真のIHの文字が気になってしゃあないで」
「IH?」
「絵が燃えてまうがな」
「ほう」
「そうか、君はチンする気か」
「さすが君、僕の相方や。これはお父さんがIHで熱するまでのアートや」
「つまり」
「つまり、お父さんがチン」
「オッチンチンや」
「お腹いっぱいや、そろそろ帰ろか」
「みなさんもゲップしてはるわ」
「どうも、ごちそうさまでしたー!」
観客は死んだ目で2人を見つめる。笑顔も拍手もない。それに気づき、溢れる涙を拭い震えながら舞台袖に下がる2人。舞台袖、涙ながらに熱く抱擁する2人。そして口づけをして見つめ合う。
「これがほんまの」
「メルティーキッス」
「ロンバケーー!!」
なあどうかした?すごい顔で画面みとるけど。脇に蛇口ついとんかゆうくらい溢れとるけど。そうか、東京やな?東京が君をそんな顔にさせるんやな。
こういうのってたまらなく怖いよね。怯えながら書いた僕の作品、いやアートをまず世界に発信してみました。ここからはじまる何か。それは殺意かな。でも、信じるっきゃないよね。何かあるかもって信じるっきゃないよね。そっと目を閉じてバトンを君に渡します。
東京はどうだい?しばらく行ってないけどオリンピックの風は感じるかい?懐かしいね油そば。あとあの時見下ろした愚民ども。東京の夜、デリヘルでも呼ぶのかなあ。